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No.1コラム(所長 堀内)
21世紀は美しさの演出の時代
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21世紀は美しさの演出の時代(2003年9月26日)
協会誌「風力エネルギー」(2003年 Vol.27-No.3)に掲載
堀内 道夫
光と風の研究所 代表取締役
静岡大学客員教授
今迄の我国の国土計画に「美しい日本を作る」という文言が入ったのはつい最近(1998年の第五次全国総合開発計画)のことであり、それまでは美しさというものには、国は無関心であった。ようやく今年の6月に景観法が成立し、基本理念や規制などの法的根拠を与える初の包括的な基本法が整ったわけで、これから時間をかけて欧米のキレイ所に追いつく可能性が出てきた。日本人が景観に無頓着になったのは戦後の「花より団子」の時代を経て、国土をひっくり返した様な乱開発と大量生産、消費時代にゴミの山を作り、それが豊かさと勘違いして来たことが大きな原因と考えられる。しかし、その遠因はもっと古くからある。電線を張り巡らした都市や錆びたブリキ屋根の小屋が田舎の風景をも台無しにし、ゴミを散乱してもそれが醜悪であると言う感覚は麻痺してしまったのではなかろうか。
筆者は以前、国内の景気回復には電線の地下埋設が一番効果があると提案したことがある。 その理由は都市で云えば、電線(電話、CATV等)電柱がなくならないかぎり、街並を綺麗にする努力はあまりなされない、地下埋にした所は、競って店舗やエクステリアをきれいにする例が多いからである。
また街並をセンスアップすることでインテリアの向上にも繋がるために建築業界のみならず、他の産業への波及効果が大きいためである。この話を電力会社の人にしたら、「電線が醜悪などとんでもない。自分は子供の頃から何の違和感もなく、むしろ、文明の利便性に感謝している。」と言われ愕然とした思いがある。
実はニューヨークのマンハッタンも70〜80年前は電柱が乱立し、太い電線が錯綜した所は、日中でも薄暗かったという信じ難い光景であったそうである。 つまり、電気の普及により、便利さと引換えに街を電線だらけにしていったわけで、それが極端になったときに知恵が働き、景観の回復がなされていってもよい。
海外の綺麗な都市や田舎に訪れた人は異口同音に日本は汚い、なんとかせねばと思って帰ってくる人が多くなった。
この様な背景からようやく景観法が生まれたと思うが、これからは何をすべきであろうか。 短的に云えば、今まで建造物やインフラ(電線等)を作った結果、壊した景観を美しく再構築することと、身近に自然を取り入れることに尽きると思う。 具体的には全体バランスの取れた、また歴史を尊重した街並づくりや、電柱をなくすことや、緑と花や水辺などを身近に配することだと思う。
現在、水、空気、土壌もどんどん汚染され、CO2の削減もままならず、風の流れを考慮しないビルの林立もヒートアイランド現象の一因であるといわれる。 これを解決する総合的な手段はあるのであろうか。 筆者は今、自然エネルギーの普及やゼロエネルギー、ローエミッションの建物、街づくりに深く関与しているので、環境改善も併せてその面から景観問題をとりあげてみよう。
1.都市型の景観をどうするか
前述の如く、まず電線をどうにかしなければならない。電力会社は地下埋に莫大な資金がいるので、すぐには出来ないというが、筆者がアレンジしたフランスの電設会社への視察ツアーでは「電線を地中に埋めるのは当たり前、なぜ今頃視察にくるのか?」などと冷笑され、欧米先進国より数10年遅れていること痛感した。これを一挙に挽回して欧米に抜きん出るにはどうしたら良いであろうか。 答は一つで、分散型のクリーンエネルギーの徹底開発と普及である。分散型にすることにより大送電線はなくなり、電力のロスも少なくなる。少なくともこれで山間地、畑などの送電鉄塔がなくなり、景観の修復には役立つであろう。
分散型エネルギーは太陽光、風力、小水力発電等、地産地消型が理想であるが、自然エネルギーは薄いエネルギーをいかに効率よく集めるかが課題であり、まだまだ技術開発の余地が大きい。また、ガスのコージェネ、燃料電池の開発もこれから加速すると思われる。 日本の太陽光発電は現在世界一の生産量になったが、今、増産につぐ増産で、作っても環境立国ドイツに直ぐ売れてしまう。ドイツでは太陽光発電などの自然エネルギーは電力会社が特に高く買ってくれるため、最大の輸出先となっている。
経産省の試算でも2010年には、ソーラー発電の価格(現代60円/kWhが25円位になる)は商用電力と同等の価格になるという予測なので普及に拍車がかかるであろう。このソーラー発電と徹底した建物の省エネルギー化を図ると外部より殆ど電力は購入しなくても済むようになる。 現在は電力会社と系統連系しているので電線は必要であるが、家庭用コージェネ・燃料電池、NAS電池などをミックスして使い、地域単位で完結した小型の電力ネットワーク(マイクログリッド)を形成することにより、従来型の電柱は不要とすることができよう。また空調の室外機からの排熱を給湯に使うこともマレーシアでは進んでおり、我国でもようやくメーカーが関心を示し出した。 つまり室外機がなくなるとヒートアイランド現象も少なくなり、建物の醜悪な室外機も不要になり、一石二鳥である。やはり技術が壊した景観は技術が解決すべきであり、今ようやく環境に配慮した製品が生まれつつあり、景観に配慮した製品がこれから沢山出ることを期待している。
2.風力発電と景観の問題について
さて風力発電はようやく我国も普及期に入りつつあるが、今は風の強い北海道、東北の沿岸部に集中しているため、風景の中に溶け込み、牧歌的な光景を楽しむ人たちも多い。しかし、デンマーク北部沿岸のように風車が林立するとやはり景観としては"ウルサク"なり、今は海の中の洋上発電にシフトしつつある。ただしデンマークは2010年で全電力の30%を賄う計画に対し、日本はソーラー、風力全体で3%が目標なので、まだまだ景観的な問題は先の話である。しかし、これは価値観の問題で、化石燃料を燃やして空気を汚し、温暖化を進めるか、景観を若干犠牲にするかの選択で、その時代の技術開発力に関わってくる問題である。
超小型(マイクロ)風車については電力はあまり期待できないが、自然エネルギーや環境教育としては重要な役割を果たしている。筆者が3年間主査を勤めた都市基盤整備公団の"街づくりにおける風力発電の利用研究"の結果、今年公団がマイクロ風車を公式に採用した。ここではまだプロペラ風車が主であるが、人の集まる学校や公共建築物では、発電効率は若干落ちるが、騒音、振動が少なく、安全性が高い竪型風車が最適であろう。またこれは都市型景観にはマッチしたもので、環境配慮型製品といえよう。
今太田市では、平成まほろばプロジェクトでエネルギー代が全く掛からず、雨水の飲料化等も行なう「スーパーエコハウス」を計画している。この庭にもハイブリッドのソーラー街灯や光るレンガ等景観商品が配置され世界一を目指すソーラータウン(パルタウン)のシンボルとして自治体の注目を集めると思われる。またマレーシアのライオン島、横須賀市の猿島もエコアイランドとして自然と景観にマッチした島づくりや公害のイメージを払拭して森と水素社会の街づくりを検討している尼ヶ崎市なども美しい景観を取り戻す為に莫大な経費を掛け始めている。
今迄日本が目指してきた経済大国のみでは物足りず、やはり美しい景観に囲まれた日常生活を送ることも"幸せ"の大切な要素であることにようやく気付き始めたようである。今世紀は美しさを演出する時代になるといっては言い過ぎであろうか。
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